- §174Aで米国内R&Dは即時控除へ。でも日本で行うR&Dは15年償却のまま?
- まず背景:TCJA後の§174問題とは何だったのか
- §174AでDomestic R&Eは即時控除へ
- 日本で行うR&Dは15年償却のまま?
- ソフトウェア開発も対象になる
- Rev. Proc. 2026-32の中心はAccounting Method Change
- §481(a) Adjustmentはどこが精密化されたのか
- Eligibility Rule Waiverも延長
- Foreign R&EのAutomatic Changeも修正
- 日系企業の最大論点:日本開発費の分類
- R&D Creditとの整合も必要
- 実務対応:2025年・2026年申告前に確認すべきこと
- よくある誤解
- 個人的に感じること
- まとめ
§174Aで米国内R&Dは即時控除へ。でも日本で行うR&Dは15年償却のまま?
IRSが Rev. Proc. 2026-32 を公表しました。
かなり専門的なRevenue Procedureなので、一般ニュースとして大きく扱われるタイプではありません。
しかし、米国でR&Dを行う会社、ソフトウェア開発会社、スタートアップ、日系企業の米国子会社、そして日本本社や海外開発チームを使っている企業にとっては、かなり重要な内容です。
今回のポイントは、大きく分けると3つあります。
1つ目は、§174Aにより、米国内で行うDomestic R&E expendituresは原則として即時控除できるようになったこと。
2つ目は、日本など米国外で行うForeign R&E expendituresは、引き続き§174の15年償却が残ること。
3つ目は、Rev. Proc. 2026-32が、§174・§174A・§460に関する Accounting Method Change の手続きを修正し、特に§481(a) adjustmentやResidential Construction Contractsの扱いを整理していることです。
Rev. Proc. 2026-32のPurposeでは、このRevenue Procedureは、Rev. Proc. 2025-23のSection 7をRev. Proc. 2025-28後の§174・§174A関連手続きに合わせて修正し、さらにSection 19を§460(e)改正後のResidential Construction Contractsに関する手続きに合わせて修正するものと説明されています。
つまり、これは「新しいR&D控除制度を作った資料」ではありません。
§174AそのものはOBBBAで新設された制度であり、Rev. Proc. 2026-32は、その制度変更を実務でどうAccounting Method Changeとして処理するかを整理する手続きガイダンスです。
まず背景:TCJA後の§174問題とは何だったのか
米国税務でR&D費用というと、以前は「研究開発費はすぐに控除できる」という感覚がありました。
ところが、2017年のTCJAにより、2022年以降のSpecified Research or Experimental expenditures、いわゆるSRE expendituresについては、即時控除ではなく、資産計上して償却するルールに変わりました。
Rev. Proc. 2026-32のBackgroundでも、TCJA §174では、2021年12月31日後に始まる税年について、SRE expendituresを資産計上し、Domestic researchに帰属するものは5年、Foreign researchに帰属するものは15年で償却すると説明されています。
この変更は、スタートアップやソフトウェア会社にとってかなり重いものでした。
たとえば、売上がまだ小さい会社でも、エンジニア給与や開発費をすぐに全額控除できず、5年または15年に分けて償却する必要がありました。
その結果、キャッシュは出ているのに税務上の損金化が遅れ、実際には資金繰りが厳しい会社でも課税所得が出る、という問題が起きました。
特にソフトウェア開発費もR&E expenditureとして扱われるため、SaaS、AI、FinTech、E-commerce、社内システム開発など、かなり幅広い会社に影響がありました。
§174AでDomestic R&Eは即時控除へ
この流れを大きく変えたのが、OBBBAによる §174A の新設です。
Rev. Proc. 2026-32は、§174A(a)について、2024年12月31日後に始まる税年に支払われた、または発生したDomestic research or experimental expendituresについて、§263にかかわらず控除を認めるものだと説明しています。
IRSのWorking Families Tax Cutsページでも、2024年12月31日後に始まる税年について、納税者はDomestic R&E expendituresを控除でき、代替的に60か月以上の期間で資産計上・償却する選択もできると説明されています。
つまり、米国内で行うR&Dについては、TCJA後の5年償却ルールから、かなり大きく巻き戻された形になります。
研究者、エンジニア、プロダクト開発チーム、ソフトウェア開発チームの人件費や関連費用を、要件を満たす範囲でその年に控除できるようになるため、黒字企業にとっては課税所得とキャッシュフローに直接影響します。
ただし、ここで大事なのは、即時控除の対象はDomestic R&Eであって、Foreign R&Eではないという点です。
日本で行うR&Dは15年償却のまま?
日系企業にとって一番重要なのは、ここです。
§174A上のDomestic R&Eとは、納税者のtrade or businessに関連して支払われた、または発生したR&E費用のうち、§41(d)(4)(F)のforeign researchに帰属するものを除いたものです。Rev. Proc. 2026-32もこの定義を明記しています。
そして、§41(d)(4)(F)のForeign researchとは、米国、プエルトリコ、または米国領の外で行われる研究を指します。
したがって、日本で行う研究開発は、通常、Foreign researchに該当する可能性が高く、その場合は§174Aの即時控除ではなく、§174の15年償却の対象になります。
Rev. Proc. 2026-32も、OBBBA後の§174について、Foreign R&E expendituresは引き続き資産計上され、その税年の中間点から15年で按分償却されると説明しています。
整理すると、次のようになります。
| R&Dの場所・性質 | 2025年以降の基本的な扱い |
|---|---|
| 米国内で行うR&D | §174Aにより原則として即時控除可能 |
| 米国内R&Dをあえて資産計上する場合 | §174A(c)により60か月以上で償却選択可能 |
| 日本で行うR&D | Foreign researchに該当する場合、§174により15年償却 |
| 米国外の外注先によるソフトウェア開発 | Foreign R&Eとして15年償却の可能性 |
| 米国・日本の混在プロジェクト | Domestic / Foreignに合理的な配分が必要 |
ここで重要なのは、「どの会社が費用を払ったか」だけではなく、研究開発活動がどこで行われたかです。
たとえば、米国子会社が日本本社に開発費を支払っている場合でも、実際の研究開発活動が日本で行われているなら、その費用はForeign R&Eとして扱われる可能性があります。
逆に、日本企業グループであっても、米国子会社の米国内従業員が米国内で研究開発を行っている場合は、Domestic R&Eとして§174Aの対象になる可能性があります。
ソフトウェア開発も対象になる
ソフトウェア開発会社にとっても、今回のルールは重要です。
§174Aでは、ソフトウェア開発に関連して支払われた、または発生した金額は、R&E expenditureとして扱われます。U.S. Codeの§174Aにも、software developmentに関連する金額はresearch or experimental expenditureとして扱われると明記されています。
これは、SaaS、AI、アプリ開発、ECプラットフォーム、社内システム開発などに広く関係します。
特に日系企業では、米国側がプロダクトを販売し、日本側の開発チームがコードを書いているケースがあります。
この場合、米国子会社のP&LにR&D費用が入っていても、実際の開発作業が日本で行われているなら、Foreign R&Eとして15年償却になる可能性があります。
「米国子会社の費用だからDomestic R&E」という単純な判断は危険です。
Rev. Proc. 2026-32の中心はAccounting Method Change
Rev. Proc. 2026-32の中心は、§174Aの制度説明そのものではなく、Accounting Method Changeの手続きです。
同Revenue Procedureは、§174・§174A・OBBBA transition optionsに対応する処理変更は、§446(e)および§481の対象となるAccounting Method Changeであり、Rev. Proc. 2015-13またはその後継手続きに従う必要があると説明しています。
つまり、会社が「今年からDomestic R&Dを即時控除します」とだけ判断して終わる話ではありません。
過去にTCJA §174に基づいて資産計上していた未償却残高がある場合、どの方法で回収するのか。
Form 3115が必要なのか。
Statement添付で足りるのか。
§481(a) adjustmentが必要なのか。
Cut-off basisなのか。
これらを確認する必要があります。
§481(a) Adjustmentはどこが精密化されたのか
今回の記事で特に注意したいのが、§481(a) adjustmentです。
§481(a) adjustmentとは、Accounting Method Changeを行う際に、過去と新しい方法の差額を調整し、所得や控除が二重に入ったり、逆に抜けたりしないようにする仕組みです。
Rev. Proc. 2026-32は、特にRev. Proc. 2025-23 Section 7.01、つまりTCJA §174下のDomestic research or experimental expendituresに関するAccounting Method Changeについて、modified §481(a) adjustmentの扱いを修正しています。
具体的には、modified §481(a) adjustmentは、2021年12月31日後かつ2025年1月1日前に始まる税年に支払われた、または発生した支出のみを考慮するとされています。さらに、過去にrecovery of unamortized amount methodへ変更している場合、その方法を反映する必要があるとされています。
また、modified §481(a) adjustmentがnegativeになる場合には、納税者はcut-off basisで処理する選択ができるとされています。
さらに、Section 7.01の変更とrecovery of unamortized amount methodへの変更を同じ年に行う場合、net positive §481(a) adjustmentの調整期間は、選択した未償却額回収方法と同じになります。つまり、1年で全額取り込むか、2年で按分する形になります。
Eligibility Rule Waiverも延長
Rev. Proc. 2026-32では、Accounting Method Changeのeligibility rulesについても重要な修正があります。
通常、Automatic Accounting Method Changeでは、過去5年間に同じ項目について変更している場合など、Rev. Proc. 2015-13のeligibility rulesに引っかかることがあります。
しかし、Rev. Proc. 2026-32は、§174・§174A関連の一定の変更について、Rev. Proc. 2015-13 Section 5.01(1)(d)および(f)のeligibility rulesを、2028年1月1日前に始まる税年について適用しないよう修正しています。
これは実務上かなり大きいです。
2022年にTCJA §174対応で資産計上へ変更し、2025年以降に§174A対応でDomestic R&E即時控除へ戻し、さらに未償却残高の回収方法も検討する。
このように短期間で制度が何度も変わっているため、通常のeligibility ruleをそのまま適用すると、Automatic Changeが使いにくくなる可能性があります。
Rev. Proc. 2026-32は、その混乱を緩和するための手当てをしていると考えられます。
Foreign R&EのAutomatic Changeも修正
日系企業にとって見落とせないのが、Foreign R&Eに関する修正です。
Rev. Proc. 2026-32は、Foreign research or experimental expendituresについて§174に従うAccounting Method Changeの適用を、2026年1月1日前に始まる税年に限定していた制限を取り除いています。
これは、日本でR&Dを行う日系企業にとって重要です。
Domestic R&Eの即時控除ばかりに注目していると、日本本社や海外外注先のR&D費用を誤って即時控除してしまうリスクがあります。
もしForeign R&Eを誤って処理していた場合には、§174に従う15年償却へAccounting Method Changeが必要になる可能性があります。
その際、Automatic Changeを使えるか、§481(a) adjustmentをどう計算するか、過去年度の処理をどう整理するかを確認する必要があります。
日系企業の最大論点:日本開発費の分類
日系企業の米国子会社で最も注意すべきなのは、日本側で行う研究開発費の分類です。
たとえば、次のようなケースです。
| ケース | 税務上の注意点 |
|---|---|
| 米国子会社が日本本社に開発費を支払う | 実際のR&Dが日本で行われていればForeign R&Eの可能性があります。 |
| 日本本社のエンジニアが米国向け製品を開発 | 市場が米国でも、研究活動が日本ならForeign research判定が必要です。 |
| 米国子会社が日本の外注先へソフトウェア開発を委託 | Foreign software development expenditureとして15年償却の可能性があります。 |
| 米国従業員と日本従業員が同じプロジェクトに参加 | Domestic / Foreignに合理的な配分が必要です。 |
| 開発場所の記録がない | IRS対応時にDomestic即時控除を説明しにくくなります。 |
ここで重要なのは、請求書の宛先や費用負担者だけではありません。
研究開発活動がどこで行われたのか。
誰が作業したのか。
どのプロジェクトに紐づくのか。
どの費用が米国内活動で、どの費用が日本・海外活動なのか。
これらの記録が必要です。
R&D Creditとの整合も必要
§174AとR&D Creditは同じ制度ではありません。
ただし、どちらも研究開発費や研究活動の内容に関係するため、実務上は整合が必要です。
IRSのTaxpayer Advocate Serviceも、新しいR&E rulesとResearch Creditは密接に関係し、Research Creditを請求する場合には、Domestic R&E deductionsやcapitalized amountsの調整、また§280Cのreduced credit electionに注意が必要になると説明しています。
日系企業では、R&D Credit provider、外部CPA、移転価格チーム、米国子会社の経理、日本本社の開発部門が別々に動くことがあります。
その場合、§174Aの費用分類、§174のForeign R&E、Form 6765のR&D Credit、§280C、Intercompany charges、Transfer Pricing documentationがバラバラにならないように確認する必要があります。
実務対応:2025年・2026年申告前に確認すべきこと
今回のRev. Proc. 2026-32を踏まえると、R&Dを行う会社は、2025年・2026年申告前に次の点を確認した方がよいです。
| 確認項目 | なぜ重要か |
|---|---|
| R&D費用の場所別分類 | Domestic R&Eは§174A、Foreign R&Eは§174で扱いが変わります。 |
| 2022〜2024年の未償却Domestic SRE残高 | OBBBA transition optionsと§481(a) adjustmentに影響します。 |
| 日本・海外開発費の有無 | Foreign R&Eは15年償却が残るため、即時控除との混同に注意が必要です。 |
| Software development costの分類 | ソフトウェア開発費もR&E扱いになるため、場所別管理が必要です。 |
| Form 3115またはStatementの要否 | Accounting Method Changeとして処理すべきか確認が必要です。 |
| Automatic ChangeのEligibility | Rev. Proc. 2026-32で一定のeligibility rule waiverがあります。 |
| R&D Creditとの整合 | §174A、§174、Form 6765、§280Cの整合が必要です。 |
| State conformity | 州がFederal §174Aに追随しているか確認が必要です。 |
| §460対象契約 | Residential Construction Contractsを持つ会社はAccounting Method Changeを確認すべきです。 |
特にState conformityは要注意です。
FederalでDomestic R&Eが即時控除できても、州が同じ扱いに従うとは限りません。
カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーなど、主要州でR&D費用の扱いがどうなるかは、別途確認する必要があります。
よくある誤解
誤解1:R&Dは全部即時控除に戻った
これは誤りです。
即時控除の中心はDomestic R&Eです。Foreign R&Eは引き続き§174により15年償却です。IRSも、Foreign R&E expendituresは現在控除できず、15年で按分償却すると説明しています。
誤解2:日本企業グループのR&Dなら米国子会社で即時控除できる
これも危険です。
判定の中心は企業グループの国籍ではなく、研究活動がどこで行われたかです。§41(d)(4)(F)のforeign researchは、米国、プエルトリコ、米国領の外で行われる研究を指します。
誤解3:Rev. Proc. 2026-32が新しい控除制度を作った
これも正確ではありません。
Rev. Proc. 2026-32は、§174・§174A・§460に関するAutomatic Accounting Method Change手続きを修正するものです。§174AそのものはOBBBAで新設された制度です。
誤解4:Form 3115は常に不要
ケースによります。
Rev. Proc. 2026-32は、§174・§174A・§460関連の一定の変更をAccounting Method Changeとして扱い、Rev. Proc. 2015-13またはその後継手続きに従う必要があると説明しています。
個人的に感じること
個人的にRev. Proc. 2026-32を見て感じるのは、§174AによるDomestic R&D即時控除の復活は歓迎すべき一方で、実務は決して単純ではないということです。
特に日系企業の場合、「米国子会社のP&Lに入っているR&D費用」と「米国税務上Domestic R&Eとして即時控除できる費用」は、必ずしも同じではありません。
米国子会社が費用を負担していても、その中身が日本本社の開発サービス、海外エンジニアの外注費、国外ソフトウェア開発であれば、Foreign R&Eとして15年償却になる可能性があります。
逆に、日本企業グループであっても、米国子会社が米国内でしっかり開発活動を行っている場合は、§174Aにより即時控除の恩恵を受けられる可能性があります。
この差は、単なる税務分類ではありません。
米国内でR&Dを行うインセンティブそのものに関わります。
今回の制度変更は、米国内R&Dを税制上優遇し、米国外R&Dには15年償却を残すことで、開発活動を米国内へ誘導する政策意図があるように見えます。
日系企業としては、この流れを踏まえて、税務だけでなく、開発拠点、人材配置、Intercompany pricing、R&D Credit、州税、財務予測まで含めて見直す必要があると思います。
まとめ
Rev. Proc. 2026-32は、§174・§174A・§460に関するAccounting Method Change手続きを整理・修正する重要なRevenue Procedureです。
§174Aにより、2024年12月31日後に始まる税年のDomestic R&E expendituresは、原則として即時控除できるようになりました。
一方で、日本など米国外で行うForeign R&E expendituresは、引き続き§174により15年償却です。
Rev. Proc. 2026-32は、Domestic R&Eの2022〜2024年未償却額、recovery of unamortized amount method、modified §481(a) adjustment、eligibility rule waiver、Foreign R&EのAutomatic Change、そしてResidential Construction Contractsに関する§460 Accounting Method Changeを精密化しています。
日系企業にとって最も重要なのは、R&D費用を「米国内」と「日本・海外」に分けて管理することです。
米国子会社が費用を負担しているからといって、すべてがDomestic R&Eになるわけではありません。
実際にどこで研究開発が行われたのか、誰が作業したのか、どの契約に基づく費用なのかを確認する必要があります。
2025年・2026年申告では、§174Aの即時控除だけに注目するのではなく、Foreign R&Eの15年償却、§481(a) adjustment、Form 3115、R&D Credit、State conformityまで含めて確認することが大切です。
R&D税務は、単に「控除できるか」ではなく、「どの国で、どの活動が、どの方法で処理されるか」を問う時代に入っていると思います。

コメント