日本からアメリカに移住した方などはアメリカ国外に銀行・金融口座やその他金融資産をお持ちになっている方が多いと思います。
アメリカで確定申告の時期になると一定の条件を満たした方は、FBAR (Report of Foreign Bank Financial Accounts)とFATCA (Foreign Account Tax Compliance Act) の要件に従って、アメリカ国外の銀行・金融口座やその他金融資産を報告する義務があります。
両報告ともに報告する資産残高などによって税金が発生したりすることはありませんが、報告を怠ったりなどすると深刻なペナルティーが課されます。
今回はそのFBARとFATCAの概要と報告義務について、それぞれ紹介させていただきます。
FBAR: 海外銀行・金融口座の報告義務
概要
FBARでは、FinCen Form 114(旧称: Form TD F 90-22.1)と呼ばれるフォームによって、文字通りアメリカ国外の銀行・金融口座を報告する必要があります。
FBARの主な目的は、マネーロンダリング防止で、アメリカ国外にある金融口座を米国当局に対して開示することにあります。
確定申告と提出時期は重なりますが、FBARはInternal Revenue Service (IRS: 米国税務当局)に対して提出される確定申告書(Form 1040)の一部ではなく、Bank Secrecy Act (銀行秘密法)に基づき、米国財務省の一部門であるFinancial Crimes Enforcement Network (FinCEN:金融犯罪取締執行ネットワーク) に対して提出されるフォームです。
FinCen Form 114の提出日は4月15日で、必要に応じて10月15日まで延長可能です。
FinCen Form 114は電子申告が義務付けられていますが、こちらの電子申告はIRSが管理している確定申告用の電子申告とは異なるシステムを利用する必要があります。
報告義務者
基本的に、下記の2つの条件に該当する全ての方はFBARを提出する義務があります。
- US Person (米国市民、米国居住者、米国事業所)
- アメリカ国外の銀行・金融口座の年間最高残高の総合計額が$10,000を超える
また、FBARは口座保有者がそれぞれ提出する必要がありますので、例えば確定申告を夫婦合算で行った場合でも、夫婦それぞれが別個にFBARを提出する義務を負います。
また、口座保有者が未成年など被扶養者であっても、口座の法的所有者である限り、その被扶養者個人がFBAR提出を行う必要があります。
US Person (米国市民、米国居住者、米国事業所)
米国居住者とは、グリーンカード保持者および実質滞在テストの条件などに該当する米国税法上の居住者を指します。
米国居住者や実質滞在テストについての詳しい説明は別記事をご参照ください。
なお、F-1ビザやJ-1ビザの保有者などアメリカにおける滞在ビザの種類によってはForm 8843を提出することによってアメリカでの滞在日数が実質滞在テストの対象とならなくなります。
従って、留学生やトレーニーの場合にはFBARの申告対象者から外れる人が多いと思います。
なお、Internal Revenue Code 6013(g)や6013(h)の規定によって、米国居住者としてみなされる米国非居住者の場合、FBARの要件では依然米国非居住者として取り扱われますのでFBARの申告義務はありません。
アメリカ国外の銀行・金融口座の年間最高残高の総合計額が,000を超える
FinCen Form 114の提出義務は、US Personに該当し、かつ一暦年(1月1日から12月31日)のいずれかの時点において、アメリカ国外に保有する銀行・金融口座の年間最高残高の総合計額が$10,000を超える場合に発生します。
例えば、アメリカ国外のA銀行に$7,000、B銀行に$6,000の口座を保有していた場合には合計資産が$10,000を超えるため、A・B全ての銀行の口座を開示する必要があります。
口座の単位通貨が米国ドル以外の場合、為替レートはTreasury’s Bureau of the Fiscal Serviceに記載された該当する暦年の12月31日付の為替レートを使用するよう指示があります。
為替レートを使用して出した米国ドルの四捨五入は切り上げます。
なお、アメリカ国外の口座の法的な口座名義人でなくとも、その口座の署名権(Signature Authority)を持っている場合には、署名権者としてその口座の開示が必要です。
例えば、会社のCFOとして、会社名義の銀行口座の署名権を保有している場合、そのCFOは、CFO個人名義の口座とともに、会社名義の銀行口座を個人のFBAR上で開示する必要があります。
会社も口座保有者としての開示義務があるため、結果として、その銀行口座はCFO個人と会社の両方がそれぞれ提出するFBAR上に開示されることになります。
報告対象
FBARにおける報告対象のアメリカ国外の銀行・金融口座とは以下を含みます。
- 銀行口座(預貯金・当座・貯蓄・財形・譲渡性預金(CD)・定期預金等含む)
- 株式およびその他証券・金融派生商品口座
- 雇用者の管理・提供する口座(確定給付型年金、確定拠出型年金、社内預金、財形、退職金、持株会等含む)
- 満期型保険
ペナルティー
FBARが適切に提出されなかった場合、最高$10,000のペナルティーが課せられます。
意図的に開示を行わなかった等の場合には、$100,000あるいは口座残高の50%の内、どちらか大きい金額のペナルティーが課されます。
さらに、刑事罰の対象となる可能性もあります。
FATCA: 海外金融資産の報告義務
概要
FATCAでは、Form 8938と呼ばれるフォームによって、アメリカ国外の海外金融資産を報告する必要があります。
FATCAの主な目的は、米国外資産の隠匿による課税逃れの摘発強化を趣旨としており、アメリカ国外の金融資産を米国当局に開示することにあります。
FBARと異なり、Form 8938は確定申告の一部であり、Form 1040と一緒にIRSへ提出します。
従って、Form 8938の提出日は申告書と同じく4月15日で、必要に応じて10月15日まで延長可能です。
FBARとForm 8938は内容はかなり似通っていますが、それぞれ別々の当局へ提出されるものであるため、一方の提出によってもう一方の提出が免除されるといった性格のものではありません。
報告義務者
基本的に、下記の2つの条件に該当する全ての方はForm 8938を提出する義務があります。
- Specified Person (米国市民、米国居住者、特定の米国事業所)
- アメリカ国外の金融資産の年間最高残高の総合計額が一定額を超える
なお、確定申告書の提出義務が無い場合にはForm 8938の提出義務も発生しません。
Specified Person (米国市民、米国居住者、特定の米国事業所)
米国市民と米国居住者の定義はFBARにおける定義と基本的に同じですが、気を付けなくてはならない点があります。
FBARでは6013(g)や6013(h)の規定によって、米国居住者としてみなされる米国非居住者の場合には申告義務はありませんでしたが、Form 8938については当該米国居住者は申告義務があります。
アメリカ国外の金融資産の年間最高残高の総合計額が一定額を超える
Form 8938の提出義務は、Specified Personに該当し、かつ申告年度(通常1月1日から12月31日)のいずれかの時点において、アメリカ国外に保有する金融資産の年間最高残高の総合計額が下記の表で示される金額を超える場合に発生します。
独身・夫婦個別申告 | 夫婦合算申告 | |
アメ リカ 国内 在住 | 申告年度末での対象資産の総額が$50,000超、 または年内のいずれかの時点での残高が $75,000超の場合 | 申告年度末での対象資産の総額が$100,000超、 または年内のいずれかの時点での残高が $150,000超の場合 |
アメ リカ 国外 在住 | 申告年度末での対象資産の総額が$200,000超、 または年内のいずれかの時点での残高が $300,000超の場合 | 申告年度末での対象資産の総額が$400,000超、 または年内のいずれかの時点での残高が $600,000超の場合 |
FBARと同じく、口座の単位通貨が米国ドル以外の場合、為替レートはTreasury’s Bureau of the Fiscal Serviceに記載された該当する申告年度の最終日付(通常12月31日)の為替レートを使用するよう指示があります。
為替レートを使用して出した米国ドルの四捨五入は切り上げます。
なお、FBARと異なり、署名権を持つ口座について、署名権者がForm 8938において開示義務を負うということはありません。
報告対象
Form 8938における報告対象のアメリカ国外の金融資産とは以下を含みます。
- 銀行口座(預貯金・当座・貯蓄・財形・譲渡性預金(CD)・定期預金等含む)
- 株式およびその他証券・金融派生商品口座
- 雇用者の管理・提供する口座(確定給付型年金、確定拠出型年金、社内預金、財形、退職金、持株会等含む)
- 満期型保険
- 口座外にある金融資産(お手元にある株券など)
FBAR同様に土地、外貨、貴金属、芸術品等は報告の対象となりませんが、FBARよりも報告対象範囲が広めになっています。
ペナルティー
Form 8938が適切に提出されなかった場合、最高$10,000のペナルティーが課せられ、IRSからの通知を受領してから30日以内に申告しない場合は30日ごとに$10,000の罰金が積まれます。
最悪の場合、最高$60,000までの罰金、さらに刑事罰が課される可能性があります。
また、開示対象資産からの所得が未計上であった場合、未計上所得に対するペナルティーは、過少納税額40%のペナルティーや、意図的な未計上の場合には75%のペナルティー等が、それぞれ個別に計算されます。
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