One Big Beautiful Bill Actの成立
2025年7月4日、トランプ大統領が「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」に署名し、上院と下院で承認されたこの法案が成立しました。前任期中に成立した「Tax Cuts and Jobs Act(TCJA)」の納税者に優しい多くの規定を延長していることが大きなポイントになりますが、以下に個人と企業に影響を与える主要な変更点を記載します。
個人所得税
- チップ収入に対する新たな税額控除
サービス業で働く方に朗報です。年収15万ドル未満のチップ収入者に対し、最大25,000ドルの税額控除が新設されました。この控除は2028年までの適用となります。これまでチップは給与と同じ「課税対象」でしたが、OBBBAにより一定額まで控除できる仕組みが導入されました。レストランやホテル業界で働く人の実質的な負担軽減が期待されます。 - 自動車ローン利子の控除
住宅ローン利息控除に似た仕組みが、自動車ローンにも適用されるようになりました。2025年から2028年までの間に米国で組み立てられた自動車の購入に対し、最大10,000ドルのローン利子を控除できる制度が導入されました。アメリカでは車は生活必需品とも言えるため、多くの家庭にメリットが出そうです。 - 高齢者向け税額控除の導入
65歳以上の納税者に対し、最大6,000ドルの税額控除が新設され、社会保障税の負担軽減が図られます。年金生活者やリタイア後の方々にとって助けになる制度です。 - 子ども税額控除の増額
子ども1人あたりの税額控除が2,000ドルから2,200ドルに増額され、インフレに連動して調整されるようになりました。子育て世帯にとっては一番大きな改正かもしれません。控除額が引き上げられただけでなく、適用される所得の範囲も広がり、より多くの家庭が恩恵を受けられるようになりました。 - トランプアカウント(子ども資産形成口座)の設立
子どもの教育費や将来の資産形成を目的にした新しい口座制度が始まります。教育資金の準備や資産運用に使えるもので、内容的には529プランやIRAの延長線上にある仕組みです
企業向け税制
- 法人税率21%の恒久化
これまで期限付きだった21%の法人税率が恒久化されました。経営計画や長期投資の見通しを立てやすくなるのは大きなメリットです。 - ボーナス減価償却の復活と拡大
2025年1月20日以降に取得した「Qualified Property(適格資産)」について、TCJAで導入された100%のボーナス減価償却が恒久的に復活しました。これにより、企業は設備投資を迅速に償却できるようになります。また、ポイントとして米国内製造業を対象とした適格製造施設(Qualified Production Property)に関しても、事業供用年度に全額損金算入が可能となる新制度が創設されました。 - 研究開発費(R&D)(Section 174)の見直し
近年は「R&D費用を数年にわたって償却しなければならない」という制限が導入されていましたが、OBBBで柔軟性が戻り、即時経費化しやすくなります。特にソフトウェア開発企業には追い風となりそうです。具体的には米国国内でのR&D費用に関して、納税者の選択により即時償却できるようになりました。米国国外でのR&D費用に関しては引き続き15年での定額償却が必要となります。2022年1月1日から2024年12月31日までに発生し、すでに資産計上された米国国内でのR&D費用については、以下のいずれかを選択可能となります。- 2025年1月1日以降に開始する課税年度において、未償却残高を全額損金算入
- 2025年1月1日以降に開始する課税年度およびその翌課税年度において、50%ずつ
- 5年での償却を継続
- 事業利息控除の拡大
借入金を使ってビジネスを拡大している企業にとっては朗報です。過去数年で厳格化していた利息控除のルールが一部緩和され、資金調達コストの負担が軽減されます。具体的には、事業利息控除の計算において、「調整後課税所得(ATI)」の定義が緩和され、減価償却、償却、減耗の控除を考慮しない方法が採用されました。これにより、企業の利息控除額が増加します。 - 国際税制の強化
海外に子会社や拠点を持つ企業に対しては、新しい課税ルールや規制が導入されます。多国籍企業にとっては引き続き注意が必要です。
OBBBAの前後比較
カテゴリー | OBBBA以前 | OBBBA以後 |
---|---|---|
チップ収入 | 給与と同じく全額課税 | 年収15万ドル未満で最大25,000ドルの税額控除(2028年まで) |
自動車ローン利息 | 控除なし | 米国内組み立て車のローン利息最大10,000ドル控除(2025~2028年) |
高齢者向け税額控除 | なし | 65歳以上に最大6,000ドルの新税額控除 |
子ども税額控除 | 子ども1人あたり2,000ドル | 子ども1人あたり2,200ドル + インフレ連動 + 対象所得の範囲拡大 |
トランプアカウント(子ども資産口座) | なし | 教育・資産形成用の新口座(詳細は規則待ち) |
法人税率 | 21%(期限付き) | 21% 恒久化 |
ボーナス減価償却 | 段階的に廃止中 | 適格資産に対し100%即時償却(恒久化) |
製造施設(Qualified Production Property) | 標準の減価償却 | 米国内製造施設は事業供用年度に全額損金算入可能 |
研究開発費(Section 174) | 数年にわたる償却が必要 | 米国内R&Dは即時経費化可能(過去費用に遡及選択あり) |
事業利息控除 | ATI定義が厳格で控除制限あり | ATI定義緩和で控除額増加 |
国際税制 | 既存のTCJAルール | 多国籍企業向けに新しい規制・課税ルール |
まとめ
One Big Beautiful Bill Actは、個人にとっては 生活コストの軽減、企業にとっては 投資・成長を後押しする制度 が中心の改正です。
ただし:
- 控除やクレジットには所得制限や適用条件があります
- 国際税制の部分は企業によっては負担増となる可能性があります
- 新しい口座制度(トランプアカウント)は詳細ルールの発表待ちです
つまり、「全員に無条件でお得」というよりは、状況に応じてメリット・デメリットが分かれる改正といえるでしょう。
コメント